厨房機器の熱源選びは、飲食店の経営に大きく影響する重要なテーマです。
前編では、ガスとIHの基本的な特徴や導入時のポイントをご紹介しましたが、今回はより具体的にランニングコストの比較や実際の試算を交えて、両者のメリット・デメリットを深掘りしていきます。
「IHは省エネと聞くけど、本当にランニングコストは安くなるのか?」
「ガスと比べてどんな経済効果が期待できるのか?」
そんな疑問をお持ちの方に向けて、具体的な数字をもとにわかりやすく解説します。
これから厨房設備の選定を進める方は、ぜひ最後までご覧ください。

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目次
実際どうなの?ランニングコストの試算比較

厨房機器を選ぶ際、「IHは省エネと聞くけど、本当にコストが下がるのか?」と疑問に思う方もいらっしゃるかと思います。
ここでは、ガスとIHの調理熱源におけるランニングコストの違いを、試算を交えて詳しく見ていきます。

※前提として、以下のような仮定で比較してみます。
・調理機器使用時間:1日6時間 × 25日稼働(=月150時間)
・機器出力:ガスコンロは5kW相当、IHクッキングヒーターも5kWとする
・単価:都市ガス…1立方メートルあたり約160円、電気…1kWhあたり約30円(2025年時点の平均的な参考値)
◆ 月間のエネルギー使用量を比較してみる
まず、同じ5kW出力の機器を150時間使用した場合、それぞれ以下のエネルギー消費になります。
ガス調理機器
→ 約750kWh相当(ただし熱効率約50%)
IH調理機器
→ 約600kWh(熱効率約90%)
IHの方がエネルギーを無駄なく効率的に使えるため、同じ出力でも消費電力量は少なくて済むのが特長です。
◆ 光熱費ベースの月額コスト比較(概算)
【ガス調理の場合】
実際に必要な熱量:750kWh相当
都市ガスの熱量換算:1㎥あたり約11,000kcal(≒12.8kWh)
必要なガス量:750 ÷ 12.8 ≒ 約58.6㎥
光熱費:58.6㎥ × 160円 = 約9,376円/月
【IH調理の場合】
必要な電力量:600kWh
電気単価30円/kWh
光熱費:600 × 30円 = 約18,000円/月
一見すると、ガスの方が安いように思えます。しかしこれは「エネルギー単価」の比較であり、実際の導入効果には次の章のような見えにくいコストも影響します。
◆ 見落としがちな“隠れコスト”にも注目しましょう

IHの導入がコスト高に見えても、次のような副次的な効果を考慮すると、総合的にはIHの方が経済的に優れるケースも多いのです。
空調コストの削減
IHは排熱がほとんどないため、厨房内の温度上昇が抑えられ、夏場のエアコン稼働が減ります。
特に冷房代が跳ね上がる小規模店舗では、電気代全体が抑えられる傾向があります。
清掃・メンテナンスコストの削減
IHのトッププレートはフラットで、調理後すぐに拭き取るだけで清掃完了。
油はねやススによる壁や換気扇の汚れも軽減されるため、清掃業者への依頼頻度も下げられる可能性があります。
火災リスク低下と保険コスト
IHは火を使わないため、火災保険料の軽減や、事故リスクの低減にもつながります。
特に従業員の入れ替わりが多いお店では、ヒューマンエラーによる事故防止の意味でも安心です。
IHは初期費用が高めですが、光熱費や清掃負担、空調効率の改善によって、長期的にはコストメリットが見込めるケースもあります。
◆ 結局どちらが得なのか?

仮に電気代がガスの2倍近くになるとしても、上記のような「目に見えない経費の削減」まで含めると、IH導入の方が長期的に収支が安定するケースも多くなってきています。
とはいえ、都市ガスとプロパンガスでは単価が異なり、店舗所在地によっては逆転することもあります。
導入時には必ず「地域のエネルギー単価」「厨房内の空調環境」「オペレーション方法」などを総合的に判断することが重要です。
結論:調理機器は「業態と経営方針に合わせて選ぶ」のが正解です
ガスとIH、どちらが優れているかという問いに対して、一概に「これが正解」と言い切るのは難しいのが実情です。
というのも、調理機器の選択は、単に熱源の特性だけでなく、お店の業態や営業スタイル、今後の経営方針によって最適解が変わるからです。
以下では、判断の軸となるポイントを具体的にご紹介いたします。
◆ 「料理のジャンル」と「必要な火力」で考える
まず重要なのが、料理ジャンルとその調理工程に合った熱源を選ぶことです。
中華料理や鉄板焼き、居酒屋のように「強火で一気に仕上げる料理」が多い場合は、瞬時に高火力が出せるガスが向いています。
一方、カフェやベーカリー、ビュッフェ形式のレストランなど、繊細な温度管理や一定の加熱を必要とする業態では、温度制御に優れたIHが扱いやすくなります。
また、「火を見ながら調理する職人的スタイル」か、「誰でも同じ品質で再現するセミオートなスタイル」かによっても向いている熱源が変わります。
◆ 「厨房の広さ」と「働く人の構成」で考える
IHは排熱が少なく空気の流れも乱さないため、厨房が狭いお店や、夏場の暑さに悩まされやすい立地の店舗にはとても適しています。
また、火を使わないことで火傷や火災のリスクが下がり、未経験スタッフやパートタイマーの多い店舗でも安心して使えるというメリットがあります。
逆に、ベテラン料理人がいるお店や、厨房に十分なスペースと換気が確保できている場合は、従来通りのガス設備でも十分対応可能です。
◆ 「経営方針」と「中長期の投資計画」で考える
光熱費や補助金、メンテナンスコストなどを含めたランニングコストの観点も重要です。
例えば、開業資金に余裕があり、長期的な省エネや労務コスト削減を狙うならIH。
一方、初期費用をなるべく抑えつつ、今あるスタッフや技術を活かして早期の黒字化を目指す場合はガスが有利になることもあります。
また、昨今では環境に配慮した経営やSDGsへの取り組みが店舗ブランディングの一環になるケースも増えています。
企業体質や店舗の方向性に応じて、IHを取り入れて「脱炭素対応店舗」を打ち出すという選択肢も現実的です。
◆ 大切なのは“現場に合ったバランス”
調理機器は、一度導入すれば簡単には変えられません。
だからこそ、「どちらが安いか」「どちらが高性能か」だけでなく、自店のオペレーション・スタッフ・設備・目指す将来像に合っているかを基準に考えることが重要です。
もし判断に迷ったら、厨房機器メーカーや設計業者、または同じ業態の先輩経営者の意見を聞くのも有効です。
自分たちの“現場にフィットする厨房”をつくることが、安定経営の第一歩となります。
おまけ:機器導入前のチェックリスト
厨房機器を導入する際は、性能や価格だけでなく、実際の店舗運営や厨房環境に合っているかどうかを事前に確認することが非常に重要です。
以下に、導入前に確認しておきたいチェックポイントを「プロの目線」で整理しました。
「ガス or IH」選びで迷っている方も、購入前の最終確認としてぜひご活用ください。
チェック1. 自店の業態に合った火力か?
・メニューは強火調理が中心か、弱火・中火メインか
・調理スピードやパフォーマンス(目の前調理など)を求められるか
・仕込み・加熱の安定性はどれだけ重視するか
IHは火力こそ安定していますが、「鍋を振る」などの動作にやや制限があります。
調理スタイルとの相性をしっかり見極めましょう。
チェック2. 店舗の電気容量・ガス配管は対応可能か?
・IH導入の場合、電気契約容量が足りているか(3相200Vなど)
・ガス使用の場合、配管径や圧力が業務用機器に対応しているか
・分電盤やコンセントの位置・数は機器設置に問題ないか
特にIHは高出力タイプになると想定以上の電気工事費用がかかることがあります。
導入コストは機器本体だけでなく「周辺設備費用」まで見積もることが大切です。
チェック3. 厨房の広さ・換気設備との相性は?
・狭い厨房ではIHの「低排熱」効果が大きなメリットに
・ガス使用時、換気フードの性能やダクト清掃頻度もチェック
・湿度・室温への影響や作業環境の快適性も考慮する
スタッフの動線や労働環境の快適さは、定着率や生産性にも直結します。
排熱や空気の流れまで意識して検討することで、よりよい厨房環境が実現します。
チェック4. スタッフ構成と教育体制は?
・調理担当者はベテラン中心か、初心者・パートが多いか
・教育に時間をかけられるか、操作はシンプルな方が良いか
・調理工程の「誰でも再現できる化」を目指すのか
IHは操作が簡単で、誰でも同じ加熱ができる点が強みです。
ガスは経験者にとって直感的に使いやすい一方で、慣れていないスタッフにとっては事故リスクも高まるため要注意です。
チェック5. 中長期の経営方針に沿った選択か?
・開業初期のコスト優先か、長期的な省エネを狙うか
・SDGsや省エネ補助金を活用したブランディングを視野に入れるか
・5年後、10年後を見据えた店舗運営の方向性に沿っているか
たとえば、「将来的に多店舗展開を視野に入れている」「誰でもできる調理体制をつくりたい」といった場合には、IHやセミオート機器が向いているケースも多くあります。
チェック6. 保守・メンテナンス体制は整っているか?
・機器メーカーのサポート体制や対応スピードはどうか
・万が一の故障時に「代替機」が手配できるか
・メンテナンスに必要な清掃頻度・費用も確認済みか
業務用機器は、壊れたときのダメージが営業に直結します。
導入前に、サポート体制・保証期間・部品供給体制の確認も忘れずに行いましょう。
チェック7. 補助金・助成金の対象機器かどうか?
・IHやエコ調理機器は、自治体の補助対象になる場合あり
・「省エネ型厨房機器導入補助金」などの制度があるか確認済みか
・補助金申請に必要な見積書・仕様書の用意はできるか
自治体によっては導入費用の1/2が補助される制度もあります。
情報収集と早めの申請準備が、コストダウンにつながります。
チェックリストを使って「後悔のない選択」を
調理機器の選定は、ただの「設備選び」ではなく、店舗の方向性や働く人の安全、ランニングコストにも関わる重要な経営判断です。
上記のチェックリストを使って、ご自身のお店にとって何が本当に合っているのかを見極めながら、納得感のある選択をしていただければと思います。
不安な方は、厨房機器の専門業者や設計士に相談するのもおすすめです。
現場を知るプロの視点を交えることで、より実用的でムダのない厨房がつくれるはずです。
まとめ:厨房設備は“料理のため”だけでなく、“経営のため”の選択です
飲食店を開業される方の多くが、「おいしい料理を提供するには、まず良い調理機器をそろえなければ」とお考えになるかと思います。
もちろん、料理のクオリティに直結する設備の選定は重要です。
しかし、厨房機器はそれだけではありません。
実際には、厨房設備は“料理のため”だけでなく、“経営を成り立たせるための道具”としても大きな意味を持つ選択肢なのです。
◆ 調理のしやすさ=スタッフの働きやすさ
IHコンロを導入すれば、火を使わないことで暑さや火傷リスクが減少し、厨房環境が快適になります。
快適な職場はスタッフの離職防止や作業効率の向上につながります。
反対に、ガスの「直火で調整しやすい」メリットは、経験豊富な調理人にとっては技術を最大限に発揮できる環境にもなり得ます。
つまり、設備がスタッフのモチベーションや人材の定着にも影響するということです。
◆ ランニングコストは経営を左右する
厨房は店舗の“心臓部”であると同時に、光熱費やメンテナンス費などのランニングコストを最も多く生む場所でもあります。
初期導入費用の差だけで判断してしまうと、数年後にかかるコストの差で経営が苦しくなる可能性もあります。
特にIHは、調理中の排熱が少なく空調負荷も抑えられるため、トータルの光熱費削減につながることが少なくありません。
一方、ガスも調理スピードや設備の安定感があるため、仕込み時間の短縮や回転率の向上に貢献するなど、売上面でのメリットを生む可能性があります。
◆ 店のブランドや将来像にも関わる
さらに近年では、環境配慮型の厨房=“時代に合ったお店”という印象をお客様に与える要素にもなっています。
特に都市部やエコ意識の高い地域では、「IH厨房です」「脱炭素に取り組んでいます」といったメッセージが集客やブランディングの差別化要素にもなるのです。
また、「セントラルキッチン化を目指したい」「人手が少なくても運営できる業態にしたい」などの中長期ビジョンがある場合も、厨房設備の選択がその第一歩になります。
◆ 厨房は“経営方針の翻訳結果”とも言える
厨房の設計や機器選定には、オーナーの価値観や経営スタイルがそのまま反映されます。
「職人の技で勝負する」ならガス中心でも良いですし、
「誰でも同じ品質を出せる効率重視の体制を作りたい」ならIHやオート機器が最適です。
大切なのは、「何を重視してどんな経営をしていきたいのか」というビジョンに沿って設備を選ぶことです。
設備の選択は単なる“モノ選び”ではなく、“お店の未来を形にする選択”なのです。
厨房機器選びでお悩みの方は、ぜひ「調理効率」「働きやすさ」「コスト」「ブランディング」「将来の拡張性」など、多面的な視点から自店に合ったベストバランスを見つけていただければと思います。
ご不安がある場合は、厨房設計のプロやメーカーのアドバイザーに相談し、現場に合った提案を受けるのもおすすめです。
正しい設備選びが、飲食店経営の大きな土台となることは間違いありません。
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